ラフカディオ・ハーンと島根県尋常中学校
ばけばけの「松江中学」は島根県尋常中学校
NHKの2025年後期朝ドラ「ばけばけ」でトミー・バストウさん扮するレフカダ・ヘブンや、吉沢亮さん扮する錦織友一が教鞭を執る松江中学は、現在の島根県立松江北高等学校がモデルとなっています。
ヘブンのモデルとなったラフカディオ・ハーン(のちの小泉八雲)が、1890(明治23)年に英語教師として松江にやってきた当時の松江北高等学校は島根県尋常中学校という名前でした。
このように朝ドラ「ばけばけ」の松江中学は、「中学」という名前こそついているものの、現在の学校制度に合わせると「高等学校」に相当することになります。
島根県尋常中学校の英語教師の職を紹介されたラフカディオ・ハーン
NHKが2025年5月12日に公開した朝ドラ「ばけばけ」の出演者発表の記事によると、「松江中学にはすでに錦織友一という英語教師がいて、新たに外国人教師としてやってきたヘブンをサポートする」とあります。
史実では1890(明治23)年に日本を長期間研究するための滞在費を得たかったラフカディオ・ハーンは、文部省の服部一三と東京帝国大学で講師をしているバジル・ホール・チェンバレンの紹介を経て、島根県尋常中学校の英語教師を得ます。
島根県側では県知事の籠手田安定がハーンを招聘し、島根県尋常中学校の教頭であった西田千太郎がハーンの受け入れを担当しました。
ちなみに「ラフカディオ・ハーン」という名前を「ラフカディオ・へルン」という呼び方をすることがあるのは、文部省から島根県庁に対して発行した辞令において「ハーン」ではなく「へルン」と記載されていたことに始まります。
ラフカディオ・ハーン 島根県尋常中学校におけるエピソード
島根県尋常中学校の2番目の外国人教師だったラフカディオ・ハーン
以降の記事では、ラフカディオ・ハーンが島根県尋常中学校に着任した当初のエピソードを紹介しましょう。
当時の島根県尋常中学校では、ラフカディオ・ハーンが2人目の外国人教師でした。1人目はカナダ出身の外国人教師で、あまり評判が良くない人物だったようです。
そのカナダ人教師はキリスト教の価値観を一方的に押し付け、この考え方を受け入れられない人間は「無知蒙昧な野蛮人」であると決めつけ、自分の偏った考えを学生たちに教え込んでいました。
キリストは唯一の神ではないことを説いたラフカディオ・ハーン
しかし学生の1人である石原喜久太郎(のちの医学博士)からその話を聞いたハーンはこのように答え、学生たちの考えを訂正します。
「石原君、私はその人こそ野蛮人、野鄙な無学な分からず屋の野蛮人だと思う。陛下を尊敬し、陛下の法律に随い、一朝事あるときは国家のために身分を抛(なげう)つのが最高の義務です。たとえ自分で外の人々と同じように信じなくとも、祖先の神々や国家の宗教を尊ぶのが君たちの義務です。それから、どんな人が言ったにしても陛下のためまた国家のために、そんな悪口に対して憤慨するのは、君等のつとめです。…」
田部隆次. 小泉八雲 ラフカディオ・ヘルン (中公文庫) (Function). Kindle Edition. No. 2255
石原喜久太郎をはじめとして学生たちは、ハーンにかけられたこの言葉に溜飲を下げます。
「今度の先生は日本が好きだ」や「日本人がつまらぬと思っているものまで好む」といった声が、学生の口を通して父兄たちの耳にだけでなく、松江市中にまで伝わったそうです。