ばけばけの勘右衛門がトキを「おじょ」と呼ぶ理由
「おじょ」とは「お嬢」・「お嬢様」の意味
2025年9月29日から始まるNHKの朝ドラ「ばけばけ」で小日向文世さんが演じる松野勘右衛門が、松野トキ(福地美晴/髙石あかり)さんのことを「おじょ」と呼んで大変可愛がっているシーンがあります。
「おじょ」とは「お嬢」のことを意味し、高い身分の家に生まれた女子を呼ぶときに使う言葉です。現代に当てはめて考える、女の子を「おじょ」と呼ぶことは「お嬢様」と呼んでいるに等しいでしょう。
松野勘右衛門が孫であるトキのことを「おじょ」と呼ぶ主な理由は、松野勘右衛門のモデルとなった稲垣万右衛門(いながきまんえもん)の稲垣家と、松野トキのモデルとなった小泉セツの実家である小泉家と身分の違いがあったためです。
100石取りの稲垣家と300石取りの小泉家
「ばけばけ」の松野勘右衛門のモデルは、小泉セツの養祖父である稲垣万右衛門であり、出雲国松江藩で代々、100石の知行を食む「並士(なみし)」と呼ばれる上級武士でした。
一方、松野トキのモデルである小泉セツは、稲垣家の実子ではなく小泉家から来た養子です。
小泉家は代々、300石を食む家柄で、番頭(ばんがしら。上級武士を率いて戦をする隊長格)や中老(ちゅうろう。家老の補佐)を務めることができる家でした。
稲垣家よりも小泉家の方が家格は上
幕末において出雲松江藩には約1,000の上級武士の家が存在したと言われており、稲垣家は上から428番目の家柄で、小泉家はさらにその上で少なくとも上位50位の中に入るくらいの家柄でした。
そのため小泉セツが稲垣家に養子へ入ったとは言え、稲垣万右衛門から見るとセツは、まさに身分の高い家に生まれたお嬢様の「おじょ」に当たるのです。
子供好きでもあった稲垣万右衛門
また小泉セツの生涯を描いた「八雲の妻: 小泉セツの生涯」によると、稲垣万右衛門はペリーによる黒船の来航以降、隠岐の警備や大坂の守衛にあたった「歴戦の兵(つわもの)」でありながら、子供好きという側面があったようです。
その彼は、後々までも、昔ながらの気位と古武士風な生活ぶりを捨てないような男であったが、ちょうど二年前から、藩主の「御子様方御番方」を務めてきたこともあって、大の子供好きであった。
長谷川洋二「八雲の妻: 小泉セツの生涯」 潮文庫 24ページより
そうした個人的な理由もあって、実在した稲垣万右衛門は小泉セツのことを実際に「おじょ」と呼んで可愛がっていたと言われています。
ちなみに小泉八雲と小泉セツの出会いから結婚までを中心に描いた小説「へルンとセツ」では、第一章のタイトルが「お嬢」となっています。
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